明日を造れ!ものづくりナガノ
ものづくりが強い長野県で、ものづくり企業を応援する目的から放送している番組 「明日を造れ!ものづくりナガノ」(外部サイトにリンクします) (SBC信越放送)も、これまで130社を超える企業に出演いただいた。
老舗と言われる企業も多いが、長い歴史を刻んできた経営には「伝統を大切にしながらも、それにこだわらない革新にも果敢に挑戦している」という共通点が見られる。
6月27日放送の同番組に出演いただいた株式会社仙醸の黒河内貴社長の取り組みからも、それを強く感じたので紹介したい。
コロナに対峙する老舗の酒蔵
株式会社仙醸は伊那市高遠町にある酒蔵だ。
江戸時代にあたる1866(慶応2)年に創業され、150年の歴史を持つ。
老舗ゆえに日常の「お付き合い的」ルーチンは多い。
今回の新型コロナウイルスの影響で中止されたイベントや展示会もその一つだ。売り上げへの悪影響がない訳ではなかったが、それよりも中止によって生まれた時間を商品開発に振り向けられた成果が大きかった。
開発した代表的な商品が「消毒用アルコール」だ。この手の商品は全国の酒蔵でも多く手掛けられたが、商品開発に早く舵を切ったことで、全国で3番目という早さで市場投入を実現した。
また、同社では日本酒を蒸溜した米焼酎も以前から製造しており、この蒸溜技術を生かして、世界的に需要が増えているジンの分野に向け「長野県らしいジンづくり」にも挑戦している。
「ホンモノ」の追求
日本酒の消費が減少傾向にある中、同社が求める酒造りは「ホンモノ」だ。
成熟した消費者は「ホンモノ」以外には見向きもしない。
美味しい日本酒造りに欠かせないのは、質の良い「酒米」と美味しい「水」である。
同社の酒はすべて契約農家による契約栽培の酒米を使用し、そのすべてを自社で精米するという強いこだわりで造られている。水もカルシウム豊富なアルプスの雪解け水を地下から汲み上げて使用している。
海外のコンクールで高い評価を得るためにも、「ホンモノ」であることは欠かせない。
先般、仙醸では、毎年ロンドンで開催される世界最大規模のワイン品評会 「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2021」 日本酒部門・純米大吟醸の部において、 「黒松仙醸 純米大吟醸 山恵錦 磨き40」がシルバーメダルを受賞した。
さらに2005年から製造販売している甘酒も、麹菌が生み出す多くの酵素を健康に役立てるため、加熱処理を行わない「生甘酒」として販売している。
加熱処理により酵素の働きが失われている甘酒が多い中、同社はここでも「ホンモノ」を提供していると言えるだろう。
ホンモノは変わらないことではない
このように書くと、仙醸は150年間変わらぬ工法と味で「ホンモノ」を提供してきたように思われがちだが、そうではない。
創業当時は手作業で行われていた酒造りも、現在では大規模な機械を導入し自動化が進められている。手作りのノウハウは、機械化によって失われるものではない。
また、かつては「どっしり」とした味わいが好まれた日本酒も、近年では「香り華やか」「軽やか」な風味が好まれる。同社では、そうしたニーズに合わせ、米や酵母の微妙な配合を調整しながら新たな「ホンモノ」を生み出してきた。
変わるのは嗜好だけではない。人口減少が進む中で働く人も減少し、「働き方」そのものも変えていく必要がある。
酒造りは冬に行うのが当たり前であり、冬場は特に忙しい。
しかし、冬だけが忙しい働き方は従業員の負担が大きい。そこで通年で仕事を平準化できないかと考え、夏の酒造りにも取り組んでいる。
酒造りは麹菌や酵母菌など微生物の発酵力を利用するため、雑菌が繁殖しにくい冬が仕込みの時期とされてきた。
夏場の酒造りを可能にするため、仕込みサイズを従来の10分の1程度に小型化し、冷蔵設備を活用することで、雑菌の繁殖を抑えた酒造りを実現している。
不易流行の経営
仙醸は創業以来、日本酒製造に特化してきたが、世の中のニーズ変化を受け、伝統を守りながらも事業を柔軟に進化させるため、 「米発酵文化を未来へ」 という新たな理念を掲げた。
自社が世の中に提供するのは「伝統の日本酒」ではなく、「米発酵文化」であるという明確なメッセージである。
「伝統」という言葉に縛られることで、失われてきた伝統も少なくない。
守るべきものは守りつつ、変えるべきものを見極め、果敢に変えていく。この「不易流行の経営」こそが、伝統が生き残るための秘訣なのだろう。
(参考)SBC信越放送「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2021年6月27日放送)